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日が沈みかけ、オレンジ色の空が徐々に薄暗くなっていく夕刻。
「あー...気持ちいぃー...」
ほんのり冷気をはらんだ心地よい風が開け放たれた窓から入り込む。
ベッドから下り、窓際まで歩き近づいたルミはゆっくりと深呼吸をした。
先ほどジンノがやって来て教えてくれた様々なこと。
それを思い返しながらぼんやりと窓の外に広がる庭を見つめる。
「お兄さんか......」
フフッと思わず笑みを浮かべてしまうルミ。
今までいないと思っていた血縁者が現れたことに純粋に嬉しいと思った。
しかも、自分の事をすごく大切に思ってくれているようだったものだから、余計に。
信じ難い話ばかりだったが、もしここが自分の本当の居場所だとするならば、真実を知りたいなと思った。
無くした『記憶』を取り戻したいと。
この世界に来るまでは、少しもそんなこと思わなかったのに。
自分はどんな子供で、どんな生活をしていて、どんな人に囲まれて生きていたのか。
本当の名は、ルミア・プリーストンと言うらしいが、まだまだしっくり来ない。
だが、記憶を取り戻せば全てがわかる。
(思い出したいな)
少しずつでも。
きっと、大切な何かがたくさん詰まっているはずだから。
ふと、頭の中に浮かぶのはこの世界で出会った人たちの顔。
見ず知らずで、身分も不確かな自分を助けてくれたオーリング。
何やら黒いローブの人たちに狙われていた彼を見たのが最後で、怪我がなかったのか心配だったのだが、ジンノから無事だったと教えてもらえ一安心したところだ。
それに、ノアと、エンマ。
元の世界では存在しない空想上の生き物や不確かな生命体。
それでもルミにとっては大切な友達だ。
そして
(シェイラさん...元気かな...)
自分が眠っていた時間も合わせると、もうかれこれ一週間以上会っていない。
影の部屋でひとり死のうとしていた孤独な人。
口数は少ないけど、いつも暖かい瞳で優しく見つめてくれた太陽のようなヒト。
彼の一挙一動がルミの心をくすぐり、苦しくなるほど胸を締め付ける。
今だって。
シェイラの笑顔が頭の中を占め、ぎゅううっと押しつぶされたように胸が苦しくなる。
どうしてかは分からない。
でも、他の人とは何かが違う。
痛む胸を押さえてルミは思った。
(やっぱり、会いたい......)
そして、反射的に体は病室の入口、白い扉へと向かう。
影の部屋へはどこからでも扉さえあれば行くことができた。
(影の部屋へ───)
心の中でそう叫び、扉のノブに手を掛ける。
本当に、その直前。
「きゃっ!」
「っ!」
目の前を扉ではない何かが遮り、不意に暖かな何かが、前のめりになったルミの体を包み込んだ。



