櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ






「ジンノ様っ!! それ以上は......」


「いいんだよ、アルマ」


「?」



しかし、ジンノを止めようとしたアルマを、何故かシェイラが止めた。



困惑するアルマ達に説明するようにシェイラは振り返り口を開く。



「ジンノは、ただの魔法学校の同級生なだけだから」



え、



アルマとエルヴィスは驚いたその顔で固まる。



「俺とジンノとはこの八年間を除いても、十年以上の付き合いはある腐れ縁みたいなものなんだ
この人とは上下関係なんてないんだよ」



そう。



ジンノとシェイラは魔法学校の数少ない同級生。



シェイラが『偽りの王』と呼ばれていた頃も、近くには彼がいた。



ただ、何時も、責められ続ける彼を傍観しているだけだったが。



シェイラはジンノに向き直り、言う。



「ルミに会いに来た そこをどいてくれ、ジンノ」



『ルミ』という言葉を聞き、ピクリと頬が引き攣るように動く。



「ルミ、ねぇ......俺の、妹に何のようだ」



「......見舞いだよ。昨日、君が無茶させたみたいだから」



まるで本当に目の前で火花が散るのではないかと思われるほど、二人の視線はぶつかり合い、両者とも引こうとしない。



「もう一度言う、そこをどいてくれ」



曇りのない黄金の瞳が、力強く輝く。



ジンノがぐっと眉根を寄せ、睨むようにその瞳を見つめ返した。



彼の頭の中に思い浮かぶのは、気の弱い、誰かの影に隠れてばかりだった頃のシェイラ。



何度責められようと、誰に疑われようと、どれほど非難されようと何も言い返すことのなかった弱い男。



だが、目の前にいるその男からは、幼い頃の面影は微塵も感じられない。



シェイラは、何も答えないジンノを放って、ルミの病室へと向かって歩き始める。



ジンノの真横を通る時、シェイラの左耳の漆黒のイヤリングが、キラリと光を反射した。



それは、幼い頃に何度か目にしたことのある物。



いつも、けして人に見せないよう髪で隠すようにしていた。



だけど今は髪を耳にかけて、寧ろ見えるようにしている。



「アルマとエルヴィスは部屋の外にいてくれる?」



病室前に立ち、二人にそう指示を出して、扉に手をかけるシェイラ。



その背にジンノの声がかけられる。



「お前......変わったな」



 振り返るシェイラの黄金の瞳が、再びジンノを捕らえ、そしてその口が言葉を紡ぐ。



「俺はあの頃から何も変わらない。何一つ変わらないよ」



自分を取り囲む色んなものから逃げ出した、ただの弱い負け犬。



それは今だって変わってない。



でも唯一変わった事があるとするなら──



「守りたいものができた、それだけだ」



そう言ったシェイラの瞳は、確かな覚悟で、力強く輝いていた。