櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ






「えっ、じゃあ......」



本人から直接聞く、噂を否定する言葉。



エルヴィスは思わず声をあげてしまう。



では何故、自分が責められ疑われていたあの時にそう言わなかったのかと。



一言、そう言えば、少しだけでも何かが変わったかもしれないのに。



そう言いかけたエルヴィスを、今度はアルマが静止する。



アルマは口元に笑を浮かべ、シェイラの方を向いて頷き、



「今はそれだけで充分です、ありがとうございます」



と言った。



エルヴィスはそんな従兄弟を呆気に取られるように見つめる。



王子に対してまるで対等であるかのように堂々とした態度。



まったく、肝の据わった男である。



 当のアルマは、無人の回廊にて静かにシェイラに向かって跪く。 



「私の名はアルマ・クラウド
 この命、セレシェイラ陛下にお捧げします
 私の全てを懸けて陛下をお守り致しましょう」



 胸に掲げた、焔とサクラの紋章に手を当て、恭しくその頭を下げる。



 それは、初めて彼がそうしたときよりも確実に忠誠心にあふれていた。



 アルマのその姿を驚いた様子で見つめるシェイラ。



 エルヴィスもアルマと同じように頭を下げ、王家の紋章に手を当てている。



「......君はいいのか? 何か言いかけていたけど......」



何も言わずに自然とそれをしたエルヴィスに、君はそれで大丈夫なのかとシェイラは尋ねた。



ニコニコと笑いながら自慢げに答える。



「アルマはいい奴でしょ?
昔っからの付き合いでね、アルマの言う事、やる事は全面的に信用してるんです。どんな情報よりも。
だから、そのアルマが忠誠を誓った相手を、俺が疑う筈ないんですよ」



アルマが認めれば、他に何があろうと構わない。



エルヴィスはそういうのだ。



厚すぎるほどのその信頼。



それを目にし、シェイラは言葉を失った。



自分が最も欲していたものをこの二人は持っている。



誰かにずっと認めてもらいたかった。



誰かに信じてもらいたかった。



たった一人でもいいから



必要としてもらいたかった。



目の前の二人を見つめ、当時の自分と重ねる。



唯一、自分の傍で何も変わらずに共に居てくれた、今は亡き白き少女を思い浮かべながら。



「君達は......良い魔法使いになるよ」



そう言ったシェイラの顔には穏やかな笑が浮かんでいた。



そして三人は再び歩き始める。



漆黒のイヤリングがシェイラの耳できらりと輝いていた。