櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ











フェルダン王国を恐怖のどん底に陥れた、惨殺事件から二年後。



フェルダンの国民は平和な日常を過ごしていた。



事件を解決に導いた少年が正式に特殊部隊に所属した事で、なかなか終結することのなかった戦争が、僅か一夜にして、フェルダンの完全勝利と言う形で終結。



人々は喜んだが、その戦場を目の当たりにした兵士達は、今まで経験したことがないような、残忍で情けなど一切ない化物じみたその光景に、1ヶ月は立ち直れなかったと言う。



《魔王》と彼が呼ばれ始めたのは、この戦闘後だった。



その頃から《魔王》を中心に特殊部隊の大幅な世代交代、再編成が行われ、後に、現在の世界随一の強さを誇る特殊部隊になっていく。



そんな平和な日々の最中



何の前触れもなく、第二王子セレシェイラ・フェルダンの死が国民に伝えられた。



正確には突然の失踪。



二年前から部屋にこもりっぱなしだったシェイラが、突然その姿を消したのだ。



それを行ったのは兄シルベスター・フェルダン。



ある理由があって、シェイラを守る為に、王家に代々伝わる『影の部屋』へと彼を隠し、閉じ込めた。



シルベスター以外には行方も分からず、もちろん生死もわからない。



だが、大臣たちはそれを国民に伝えることを拒んだ。



ろくな搜索もせず、大臣たちは、新たな戦争を控えている為、不利になるような汚点を作ってはならないというふざけた理由を上げて、シェイラを病死扱いにしたのだ。



人々の記憶から消えた王子。



その突然の訃報に人々は驚いたが、さしてかわいそうだなどという態度は取らなかった。



魔法も使えない、出来損ないの王族はどうなろうと知ったことではない。



まるでそう言っているかのような態度をとっていたのだ。



そして、突然、その日はやってきた。



王族分家ヘリオダス一族の暗殺事件。



分家の中で、プロテネス、クリスタリアに次いで三番目に力のあるヘリオダス家は若き当主一人を除き壊滅状態に。



国の交易を担当していたヘリオダス家の壊滅で、フェルダン王国の経済は悪化。



続いて、当時の国王と女王が立て続けに重い病にかかった。



これは好機と、数々の国がフェルダン王国を攻め始めた。



フェルダンに再び不幸がやってきたのだ。



そして人々は



ようやく、気が付いた。



フェルダンを彩るサクラが、もう、一つもないことに。



平和をもたらす桃色の花が、姿を消していたという事に。