その日は暖かな春のような日だった。
国中の木々にサクラが咲き誇り、人々はその美しさに酔いしれた。
そして、その子が生まれた事を知ったのだ。
黄金の瞳が輝く、美しい男の子。
伝説の御子の誕生を国民は喜び、王宮が埋まるほどの祝いの品が運ばれる日が何日も続いたという。
生まれた数日後には、隣国間で行われていた戦争は無事終結。なんと彼が誕生した日からの死亡者はゼロ。
瀕死の重傷を負った騎士達も、奇跡的な回復を見せ、命を落とす者は居なかった。
王族暗殺事件の犯人も捕まり、王族たちも一安心。
そして、国中にようやく平和が訪れたのだった。
誰もが神の子に感謝した。
その存在に、その力に。
彼こそが《真の王》だと。
フェルダン王国第二王子、セレシェイラ・フェルダンはそうして、人々に愛され、人々に求められ健やかに育っていったのだった。
その確かな信頼が崩れていくのは、それから十四年後。セレシェイラが魔法学校の中等部2年生に進学した頃だった。
ほかの王族達とは違い、気が弱く、よく兄の後ろに隠れるようにして生活していたシェイラ。
それでも彼は、誰にも負けないくらい純粋で心優しい少年に成長していった。
女性と見間違うくらい美しいその美貌も健在で、彼に近づこうとする女貴族達が後を絶たないほど。
それが原因で、兄の背に隠れるくせがついたのだが。
人々に愛されて育ったシェイラ。
そんな明るい幸せな日々に影がさし始めたのは、ちょうど魔法使い達の間にある噂が流れ始めたのと同時期だった。
『王子セレシェイラ・フェルダンは魔法が使えない』
信じ難い、噂。
王族は魔法を使えるからこそ王族となり得る。
それが《神》の子孫である印のようなものだから。
もちろん初めは、誰もそんな噂、信じようとはしなかった。
しかし、少しずつ状況は変化する。
魔法学校では王族は望めば個別に授業を受けることができ、シェイラは個別の指導を受けていたため、魔法を扱う姿を見たものはいない。
おまけに、年に一度行われる魔法学校の学生が必ず参加しなければならない試験試合にすら参加していなかった。
そう。
誰一人、彼が魔法を使う姿を目にしたことがなかったのだ。
実の家族でさえ。
初めは小さな綻びであっても、徐々にそれは広がり、やがて修復不可能になる。
魔法学校の学生達から広まったその噂は、王宮にいる魔法使いを通じて衛兵や大臣、王族、そして国民にまで伝わっていった。
全ての魔法を操るどころか、魔法自体が使えない。
出来損ないの王族。
そして《真の王》と人々から謳われた子供はやがて《偽りの王》と呼ばれるようになっていったのだった。



