櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ





王宮に残された文献によると、初代王が治めた王国は世にも美しい桃色の花で埋め尽くされていたという。



その花の名は『サクラ』と言い、フェルダン王家の紋章にもその花の紋様がしっかりと刻まれている。



熱く燃え盛る炎の中に凛と咲く花。



炎とその花こそが、強さと平和を兼ね備えるこの国の象徴だから。



この地に王国が出来、早数千年。



その長い時間の中で《神》の遺伝子は薄まりサクラと言う花の咲く木は、もう無い。







《真の王》が存在する時代を除けば。







《神》の遺伝子を受け継ぐ伝説の御子。初代王と同じように世界中に存在する全ての属性を操ることが出来る伝説の子。



数百年に一度、現れるというその王は、国中に神秘の花サクラを咲かせ、大きな平和をもたらす。



そう、言い伝えられている。



だからこそ、人々はその子供が生まれる事を切に願い、《真の王》として敬い奉るのだ。



前国王、シルベスターの父親がフェルダンを統治していた時。



フェルダンは平和とはいい難い状況だった。



隣国間の戦争が至る所で勃発し、軍が送られた。世界最強の特殊部隊や高い医療技術があっても、連日の戦闘に体力は消耗する。そうなれば必ずどこかで死者は出てくる。



現在国を支えている最恐の騎士《魔王》ジンノは、当時はいない。



オルクスの一族筆頭に応戦したものの至る所で戦闘が行われれば力は分散し、死者は増加。



そしてとうとう、特殊部隊の一人が瀕死の重傷をおった。



軍の部下達を守り、盾になった為に。



少しでも死人を出さないように、悲しむ人達が増えないように。



彼等特殊部隊の騎士達はその一心で衛兵達を守り、傷を負いながら、戦った。



結果、フェルダンの英雄達はその一人をはじめ、十人いた特殊部隊の騎士のうち5人が重傷を負い、多くの衛兵たちもこの世を去っていった。



そして、国の不幸はそれだけで終わらなかった。



王国内で起こった、王族暗殺事件。



先に狙われたのは権力に対して執着心の薄かったクリスタリア一族。女性の多かったその一族はこの事件ですべての人間が暗殺され、一族は壊滅した。



次に狙われたのが王家フェルダンに最も近い一族であったプロテネス家。幼いオーリングはこれに巻き込まれながらも、母のおかげで命を救われ、今は若き当主として支えている。



だが、当時オーリング以外の者が全て殺された為、これを好機にと、プロテネス家を失脚させるため暗躍する者が後を絶たなかった。



国民に対して惜しみない愛情を注いでいた心優しき二つの一族が襲われたとあって、人々の心は酷く痛んだ。



だから、人々は祈ったのだ。



平和をもたらす伝説の御子を。



サクラと共に現れる、神の子を。







そして、彼は生まれた。