櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ






 閉じ込めたといっても、無理やりシェイラを苦しめようと、そうした訳ではない。



 全ては、《神》に愛された弟のため。



 



 フェルダンに代々伝わる伝説。


 それは大昔この地に降り立った《神》にまつわるもの。







 そしてそれこそが『偽りの王』と呼ばれる所以なのだ。







「......どうだ、周りの反応には、慣れたか?」



ベッド横に置かれた席に着くと、シルベスターは心配そうに尋ねる。



「いえ...でも、ある程度予想は出来ていましたから」



 自らの手で乱暴に切られたシェイラの髪は、今はもう短く綺麗に切り揃えられており、やせ細って死にかけていたころからは考えられない整った美しい顔は、その短い髪と黄金の瞳のおかげでより端整なものに。



 自分の知らぬ間に強く逞しく成長している実の弟を、シルベスターは黙って見つめていた。







 シェイラが『偽りの王』と呼ばれる理由。






 人を愛してしまった愚かな《神》は王国を創り、その国の王となった。



人々を束ねる王となった《神》はありとあらゆる力、今でいう魔法を使い、瞬く間にその国を自然豊かな王国に育てていった。



 そして王は一人の人間に恋をし、愛を育み子を成した。



 《神》の血族故か、その一族は皆、炎の力をはじめ様々な力を操ることができたのだ。



 脈々とその血は受け継がれ、後にその力は分岐していき、それが今の王家と四大分家に繋がっていく。

 

 王家フェルダンは炎と風を操り



 オーリングのプロテネス家は炎はもちろん自然界にある全てのものを操る。



 八年前に起きた事件の被害一族ヘリオダス家は炎と光を。



 残り二つの分家も同じように炎と何かしら別の魔力を使う事ができた。



そして、長い年月を経て、その力は数は少ないものの広く人々の間に広まってき、現在に至る。



そのような魔法史が存在する中、プロテネスを除くすべての一族において二種類以上の属性を操ることは不可能という事は、魔法使い達の最低限の常識の一つとして伝わってきた。



しかし、数百年に一度、その常識を覆す、《真の王》が生まれる。



初代王の遺伝子を持った《神》に選ばれた御子が。



それがフェルダンに伝わる伝説。



それこそが



《真の王》が《偽りの王》に変わる、その始まりなのだった──────