彼の腕の中で身じろぎをし、顔を上げる。



黒髪の男の人と目が合うと彼はルミの頬や髪を優しくなで始めた。



まるで自分が猫になったみたい。



そんな風にルミを扱う。



首元に手を回された時、くすぐったくて首を引っ込めると彼は可笑しそうに笑い



「そういや、首もダメだったんだっけ
ルミアはくすぐったいの苦手だもんなあ、すっかり忘れてた......」



と言って、懐かしそうな顔をしていた。



そう言えばさっきからされるがままになっていたが、本当にこの人は誰なんだろうか。



初めてな感じはしない。



何処かで会っていたなら、名前を聞くのは失礼だろう。



しかし、このままされるがままになるのは、不思議と悪い気はしないものの、いけないと思う。



猫を愛でるように彼は優しく撫で続ける、その最中そんなことをずっと考えていた。



そして、ようやく決心したルミは、ぱっと顔を上げた。



「あの、」



「?」



突然声を上げたルミを不思議そうに見つめる男の人。



意を決してそんな彼に質問する。



「あのっ、失礼を承知でお聞きします
私とどこかで会ったことあります?」



それを聞いた途端、ぽかんとする目の前の人。



それはそうだろう。



きっと彼は今の今まで、自分がちゃんと認識した上でされるがままになっていると思っていたのだから。



「ごめんなさいっ、何処かで会ったような感じはするんですけど覚えてなくて......
記憶力は良いほうだと思うんですけど......本当にすいません」



そう言って申し訳なさそう頭を下げると、頭の上にポンっと手が乗った。



「いいよ。あまり抵抗がないものだから記憶が戻ったのかと思っていたんだ
こちらこそ悪かったな、見知らない者に触られて驚いただろう」



そして、頭を何度か撫でるとその手を離していく。



何でだろうか。



離れていく彼の手がやけに名残惜しく思えた。



触れられていた時の安心感を手放したくないようなそんな感じ。



ルミは思わず離れていくその手を追いかけるように握り締めていた。



「え、......」



当然、黒髪の男の人は困惑する。



ルミ自身も困惑する。



それでも、初めて手にした彼の手は、やはりどこか懐かしい心地よい温もりを持っていた。