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 その昔、この地に《神》が降り立った。


 
 人を愛してしまった愚かな《神》。



 人々は《神》の元に集い、自然豊かなこの場所に一つの村を作ったのだ。



 その村こそ、後のフェルダン王国であり、王家フェルダンはその《神》の末裔だとされている。



 プリ―ストンの一族とは、そんな愚かな《神》に心を奪われ、この地に降り立ったその日から彼らを守る為にその命を捧げた一族の名。



 影に徹し、《神》の為であれば例えどのような相手であれ、容赦なくその手を血で染める。



 同情や憐れみなどそんなもの何処にもない。



 鬼神のような躊躇いのないその強さを目にした誰かが、名付けたのだ。



 彼らを、聖者《オルクス》、死神の一族と。



 ただ人の命を残虐に奪う悪魔でもなく、神を愛し守る天使にも成りきれない。



 悪魔の体に天使の羽をたたえた、醜く歪んだ存在。



 それがプリ―ストン家の本当の姿。



 聖者《オルクス》の存在する意味なのだ。







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 プリ―ストンの家紋を額に浮かべて気を失ったルミ──改め、ルミアを腕に抱えたジンノはその顔を愛おしそうに見つめる。



「...王族以外で、唯一魔力が遺伝する一族でもあるプリ―ストンの血は、王族を『守る』為より力を持つ魔法使いを引き寄せ、より強い魔法使いを残そうとするのです。それが彼らの本能であり、あるべき姿なのでしょう」



 シェイラは黙ってエンマの話に耳を傾けていた。



「ジンノさんは......その遺伝子を呼び起こそうとしたのか......」



 そう。



 ジンノは王族を攻撃することで記憶を失ったルミの『守る』という本能を呼び起こそうとしたのだ。



 プリ―ストンの一族は、なにも王族に危険が及ぶ事に反応しているわけではない。殺そうとする意思、悪意や憎悪に強く反応するという。



 オーリングをジンノが襲った際に、ルミアの本能が働かなかったのは、悪意や憎悪が弱かったからか、本気で殺そうとしていなかったからか。



 逆に言えばあの時、ジンノがシェイラに銃口を向けた時、それが本能を目覚めさせるのに足りるほどにあったという事。




「ジンノさん......」



 本来なら守るべき対象であるシェイラに対し、それだけの憎しみを抱くジンノ。



 記憶を失おうと本能だけで戦うルミア。



 白と黒のように真逆に立ち、それでありながらも背中合わせに佇むの二人の姿が目に浮かぶ。



 冷たい瞳がシェイラを射るように見つめる。



 そしてジンノは、ルミアを腕に抱えたままこちらを気にするオーリングを引き連れて、闘技場を後にしたのだった。