トップを走るレーシングカーが目の前に迫ると、男は軽やかに飛び、そのレーシングカーの上に乗った。そしてすぐにまた飛び、その後を走る別の車の上に乗った。


そうして、仮面の男は素早く飛び移りながら、すべてのレーシングカーの上を渡っていったのである。


凄まじい速度で走る、レーシングカーの上をだ。


わずか数秒の出来事だった。


男に乗られたレーシングカーは、まるで呪われたかのように、すべて事故を起こし、爆発した。


人間の動きではない。
誰もが思った。
では、あの仮面の男は何なのか。
誰もが戦慄した。


「あ」


観客のひとりが、まぬけな声をあげた。
いつの間にか、仮面の男はコース上からいなくなっていた。




十分後、仮面の男は、サーキット場から1キロメートルほど離れた町の路地裏を歩いていた。


すると、背後から声をかけられた。


「牙倉雄介」


女の声だった。
仮面の男は立ち止まり、静かに振り向いた。
ワンピースを着た、ひとりの女が立っていた。
八乙女タツミだった。


「ふふふ、やっと会えたわね。牙倉雄介」


タツミは微笑んだ。
仮面の男はゆっくりと聞いた。


「あなたは、誰ですか?」透き通るような声だった。「どうして、僕の名前を知ってるんですか?」