晴天の下の宮錦サーキット場。
そこではF1レーシングの大会が行われていた。
客席は満員。多くの歓声が場内を飛び交っている。
コース上では、たくさんのレーシングカー達が歓声をかき消す程の爆音を響かせ、豪速を競いあっている。


ふと、歓声がとまどいのざわめきに変わった。
いつの間にか、コース上に、ひとりの男が立っていた。
背の高い、細身の男だった。
黒いシャツに黒いズボン。長い髪を後で綺麗に結っていた。
その顔には、何も描かれていない、真っ白な仮面をかぶっていた。目の部分に、小さな穴がふたつ開いている。


「おい、あいつ危ねえぞ」


誰かが叫んだ。


レーシングカーが物凄い速度で仮面の男に迫っていた。このままでは、吹っ飛ばされる。
自殺かと、誰もが思った。場内に悲鳴、怒号が響きわたった。


しかし、数秒後、その騒ぎ声がすうっとやんだ。


それから更に数秒後、場内に急ブレーキの音、衝突音、爆発音がいくつも重複して起きた。


仮面の男は、さっきと同じ場所に、静かに佇んでいた。


その背後では、レーシングカーの全てが、壁に衝突し、もしくは横転し、もしくは他の車とぶつかり、爆発、炎上していた。


コース上はいっきに炎の海と化した。
その赤い光が、仮面の男の影をコース上に長く伸ばした。
観客は、その惨状を目にしても、全く声をあげずに、コースを見つめつづけていた。
誰もが、夢の中にいるような表情をしていた。
そう、夢だとしか思えなかった。


あの仮面の男がさっき行ったことは、こうだ。