策郎は、眉間にしわをよせた。


「何と?」


「いまはまだ話せないわ。でも、これだけは言っておく、もうすぐ、人類に、とてつもない危機が訪れる。それを防げるのはは、私たちが開発したジュオームエネルギーによって稼動する新兵器ラザガしかないの。でも、このラザガを動かすには、強靭な肉体と精神力。そして常識にとらわれない思考力が必要とされる。まともな軍人には、ラザガに適応できる者がいなかった。だから、私たちは、まともじゃない人間、つまりあなたに目をつけた。九島策郎、あなたには、ラザガに乗って、その危機と戦ってもらいたいの」


しばらくの間、二人の間に沈黙が流れた。


タツミは、無表情で策郎を見つめていた。


策郎は、笑った。
大声で、長く笑った。
そして言った。


「いいね、いいね、いいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねいいねいねぇぇっ!人殺しのおれが、人類を守る?はははははははは、素敵で不適で無敵な話じゃあないか。いいぜ引き受けた。喜んで引き受けた。おれに二言はねえよ。で、おれはいまからどうすればいい?」


「十日程、あなたには、操縦シュミレーション室で、操縦方法を覚えてもらうわ」


「了解了解、所長様っと。あ、その前に飯食わせてくれよ。何日くらい眠ってたか知らねえけど、腹が減ってめっちゃ腹が痛え」


「いいわ。この部屋を出たら、外に警備員がいるから、彼に食堂へ案内してもらいなさい」


「あいよっと」


策郎は、まだ笑いつづけながら、部屋を出ていった。


その背中を見送りながら、タツミは一人、つぶやく。


「まず一人、地獄にようこそ、と。あと、二人ね。ラザガの性能を完全に引き出すには、パイロットはあと二人必要だわ」


そこでタツミは、胸ポケットから手帳を取りだし、開き、白いページに記された二人の男の名前に目を落とす。


『牙倉雄介』


『破藤豊作』


「さて、今度はどんなイカレ野郎に出会えるのかしら」


タツミは、うっとりと笑った。