しばらく恍惚と回想したあと、タツミは言った。


「あの時のあなたの殺人はとても素晴らしかったわ。でも、今回のレース場でのあれは、ちょっといまいちじゃない?」


雄介は、うなずいた。


「確かに、今日のあれは失敗作でした。観客は、僕の曲芸に注目しすぎていた。事故で、焼け苦しむレーサー達の姿を見てもらうことが、今回の殺人の主題だったのに」


「主題?」


「そう。僕の演出の主題は、死、です」口調に少し熱が入り始める。「人が己の生を実感する瞬間というのは、どんなときだと思いますか?それは他人の死を見るときです。他人の死を見るとき、人は自分の生も有限であることを感じ、それゆえに生きることは素晴らしいことだと感動します。ですから、文学でも、演劇でも、死は究極のテーマとして扱われます。僕の殺人は、そのテーマを追求したものなのです。たくさんの人の死を、華やかに演出することで、それを見た人達に、生きることの素晴らしさを深く味わってほしいんですよ」


語りながら興奮しているのか、仮面の下で、荒い呼吸音が、反響している。


タツミは、理想の材料を見つけたかのように笑みを浮かべた。


「素敵ね」


「ありがとうございます。それで、僕に、何の用ですか?」


「単刀直入に言うわ。あなた、ジュオームって知ってる?」


「八乙女研究所が発見した、核燃料の何倍もの力を持つといわれる特殊高エネルギー体ですよね。……そうか、あなたは八乙女研究所の人間なのですね。ジュオームを資本とし、世界中の軍事施設を裏からあやつる、強大な組織。僕の仲間が捕まるわけだ。それで、そのジュオームが何ですか?」


「あなたに、わたしの作った新型兵器に乗って、あるものを殺してほしいの?」


「あるもの?」