ラザガ




「調べたのよ。あなたに会いたくてね」


「どうやって調べたんですか?」


「あなたの仲間をちょっと拷問したの。あなた、愛されてるのね。その仲間は一ヶ月も拷問に耐えたわ」


「そうですか」


仮面の男、牙倉雄介は、感情の無い声で答えた。


「仲間の心配はしないの?」


「壊された道具に興味はありません」


「道具……ね。さすが、殺人演出家。言うことが違うわ」


牙倉雄介。十八歳。大量殺人犯。


彼は、多くの人間を華やかな演出と共に、殺してきた。
ゆえに、ついたあだ名が「殺人演出家」。


彼が起こした殺人で、もっとも有名なのは、三年前の「愛武デパート毒ガス事件」である。


休日の昼間、愛武デパート内部の全てのスプリングラーに仕掛けた毒ガスを、彼は一気にばらまいた。
ガジという猛毒を原料とした毒ガスは、そこで買い物をしていた何百人という観客の肺に吸い込まれていった。
数分後、店内は地獄と化した。
男女老人子供若者家族連れ独身金持ち貧乏人。
どの客もどの客も、床を這い血を吐き散らし、喉をかきむしりながら、苦しみ悶え、汚らしい声をあげた。
「げげげっ!」「ぎゃあああいうあああっ!」「あぁあぁあぁぁぁぁるるるっ!」「いや、いや、いやいやいやいやいややややややぼげえっ!」「げががががががごぼっ!」 「ひひひひふひひぎっ、ひぎ、ひぎっ!」「ちゃぎゃあああああああっ!」「あんあんあ、あ、あ、あがびぼげげげげげっ!」「ぐばぐばぐばあああああああっ!」
そんな芋虫のようにぐねぐねと身悶える客達の前に、一人の男が立った。
ガスマスクをつけた牙倉雄介だった。
彼はそこで、ゆっくりとバイオリンを弾きはじめた。
奇妙な曲だった。
その旋律は、客達の悲鳴と、見事に調和していた。
まるでジャズのセッションのように、数々の種類の悲鳴とそのバイオリンの演奏は綺麗に合わさり、ひとつの美しい音楽が生まれた。
その光景は、同じくガスマスクをつけていた雄介の仲間によって撮影されていた。そしてその映像は、電波ジャックにより、全国のテレビで放映された。


それを見た視聴者は最初は驚いていたが、やがてその特殊な音楽に魅了され、食いいるようにテレビ画面を見つめた。


八乙女タツミもそのひとりだった。


画面内で醜くもがく客達の表情と、音楽の美しさとのギャップに、うっとりとした。