「山口さん……俺は」
「何も言うな。今は、まだ寝てろ」
乱暴気味に俺を布団に押し込むと、山口さんは深く息を吐いた。
「今回のことは、屯所内でも極一部の者しか知らない。」
不意に、山口さんが前触れなく語り出した。
顔を出そうと試みたものの、鳩尾に入れられた傷のせいか、下手に動くことができない。
山口さんはそんな俺に構わず語り続けた。
まるで、俺のために説明をしているのではなく、自分自身の頭の中を一つずつ整理していくかのように。
「ただ……事件を知っている者も知らない者も、【屯所内で何かがあった】とは勘付いているだろう。」
俺は、布団の中で一人頷いた。
新米隊士の俺と蘭丸、二人が同時に怪我を負って帰ってきたんだ。
日々流血沙汰の絶えないこの場所で暮らす人たちにとって、血を見ない日はないんだから。
血に敏感でなければ、ここでは生きていけない。
京の都の人々から恐れられる新選組は、そういう場所だった。
「お前と矢口を助けたのは、山崎さんだそうだ。姿を消したお前達を探し、見つけた時には二人とも気を失っていたんだとさ」
そうか、山崎さんが俺たちをここまで……。
任務前に渡された短刀の確かな重みが、再び蘇ったかのように、俺は右手を握り締めた。