「ーー許せねぇ」
ただ、この男が憎い。
俺は渾身の力で畳を蹴ると、吉田の懐めがけて短刀を突き付けた。
「ーーっ」
「……もう、争う必要はない」
俺の短刀は、吉田の懐はおろか、間に飛び込んできた諸伏にすら届かなかった。
吉田は、諸伏が入ってくることが分かっていたのか、微動だにさえしない。
まるで、刀を手にして間も無い子供を相手にしているような、そんな扱い。
俺なんか、最初から自分の敵じゃないってか。
眼を瞑ってたとしても、傷を負うことはないってか。
「ふざけんなっ……」
ふざけるなよ、吉田。
「ーーよせっ」
俺は、力任せに諸伏を弾き飛ばすと拳を吉田に振り上げる。
「ーーっぁぁぁぁぁぁぁぁああ」
「甘いね、ほんと」
「……ぐっ」
倒れたのは、俺の方だった。
鳩尾に入れられた吉田の拳は重く、的確に急所をついていた。
意識が朦朧とするなかで、吉田が何かを囁いた。
「ーーーー」
俺は、吉田のその言葉を最後に、気を失った。