吉田の言葉は残酷なまでに冷ややかで、とても人間の発した言葉とは思えなかった。
「焦らされるのって、趣味じゃないんだよね……」
また一段と空気が重く、吉田の殺気が鋭くなる。
「一生消えない傷を、残してあげるよ」
刹那、吉田の手から短刀が消えた。
「ーーっ!」
短刀は一直線に俺の右眼目掛けて飛んでくる。
ーー避け切れない。
「くそっ……‼︎」
俺はただ動けないまま、短刀が眼に飛び込んでくるのを見ているしかなかった。
「ーーー京っ」
ーーえっ?
【ーーーグシュ‼︎】
肉が刺さる音が耳の奥まで響いたかと思うと、夥しいほどの血が畳に流れ落ち、噎せ返るほど悍ましい血の香りが、部屋中に広がった。
「ーー嘘、だろ」
俺は、
「蘭丸っ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
まったくの無傷だった。
「あーらら、君に刺さっちゃったか……。ちょっと想定外だったけど、これもまた……然り、だよね」
吉田がそんなことを言いながら、微笑を浮かべた気がした。
蘭丸は貫かれた左眼を庇いながら、凄まじい痛みに唇を噛み締めている。
畳に染められた蘭丸の真っ赤な血は、本当なら、俺が流すはずだったものなのに……。
なんで、此奴が。
抑えきれない、怒り
短刀を避け切れなかった、悔しさ
蘭丸に怪我をさせたことの、後悔、屈辱、悲しみ
いや、違う。
この感情は、上のどれにも当てはまらない。
禍々しいものが、腹のそこから湧き上がって、考えることにさえ苦痛に思える。