「齋藤先生、準備出来ました。」
齋藤先生は静かに俺を一瞥すると、土方副長の方に顔を向けた。
土方副長は眉間に皺を刻んだまま深く頷く。
「よし。それでは、よろしく頼む」
「ーーお願いします」
互いに向かい合う。
齋藤先生と対峙するだけで、背中に汗が一つ流れた。
髪が肌に張り付くのを感じる。
いつの間にか、風が止んでいた。
「ーー始めっ」
最初に動いたのは、齋藤先生だった。
居合の構えから、容赦無く俺を斬りつけてくる。
俺は出来るだけ最小限の動きで、それを避けた。
更に上段から来た太刀を受け流すと、俺は強めに齋藤先生を弾き飛ばした。
「ーーっ」
「……」
やっぱり、齋藤先生は強い。
あんな人は、俺の通っていた道場には一人もいなかった。
第一、蘭丸の相手をして、そう時間も経ってないのに、この身のこなしが出来るなんて……。
なんて持久力だよ。
参ったな、此処には……新選組には、齋藤先生のような超人達が何人もいるのかよ。
身震いした。
全身に血が駆け巡る。
「……ぉ…れぇ」
ーーおもしれぇ。
こんなに面白い試合は、後にも先にも滅多に体験できない。
俺は木刀を握り直すと、齋藤先生に向かって突きを放った。
試合は始まったばかり。
この勝負は、負けられない。
負けてたまるか。



