Closed memory


「…っ」


蘭丸は俺に背を向けて、小さく唸った。
齋藤先生の一撃が相当効いているのだろう。



「蘭丸……」



それ以上の言葉は掛けられなかった。


掛けられる筈が無い。
昔からずっと蘭丸と一緒に育ってきた。


あいつがこんな時欲しい言葉は、慰めの言葉でも、賞賛の言葉でも、労いの言葉でもない。


ただ、何も言わずに黙って蘭丸を見守ることが、俺にできる最善の方法なんだと、心得ていた。


だから、今回も……。


俺は手拭いを蘭丸に渡すと、木刀を握った。



新選組に来て久しぶりに触った木刀は、驚くぐらいに手に馴染んでる。



使い古した物のように、俺の手の内にピタリと当てはまるのだ。


軽く深呼吸する。
試合の前は、いつも俺はそうしていた。


心を落ち着かせるためにやっていた行為だけど、今では儀式のように感じる。



「……京」



蘭丸の側を離れようとした時、風に攫われてしまうぐらい小さな声が、耳に届いた。


立ち止まったまま、俺は振り返らずに次の言葉を待った。



「ーー行ってきなよ。見てるから、 ずっと…」



「嗚呼。行ってくる」


背後で蘭丸が笑った気がした。