ずっと下を向いていた遼くんが顔を上げた。
目が合うと、いつもの笑顔を見せてくれる。

「俺のおかげとか嬉しいな。…話してくれてありがとうな。」

お礼を言われると・・・なんか恥ずかしくなってしまう。
引かれたりしないで良かったって、心から私はホッとした。

「じゃあさ、伸也が知ってるのは記憶を失う前の永峰ってことだったの?」

「そうだよ。でも昔と今じゃ私の性格って全然違うんだよ。」

「そうなの!?」

こくりと頷く。
昔の私はスポーツが出来て、人見知りをしなかった。
今の私は運動が苦手ってわけじゃないけど、得意だったはずのバスケが苦手になったし、極度の人見知り。

大好きだったはずのコーラが苦手になって、嫌いだったはずの読書を大好きになった。

得意な科目も変わった。
髪型もロングが好きになったし、苦手だったお菓子作りが趣味になっている。

だから・・・

「【昔の私】と【今の私】は全くの別人に近いかもしれない。まぁ…この明るい可愛さだけは変わらないらしいけど!」

「自分で可愛いって、すごい自信だな。」

二人でコロコロ笑い合っていると、ズキッと頭が痛んだ。
思わず頭を押さえると、遼くんが気づいてくれる。

「まだ痛む?具合悪いのに話させてごめんな。少し寝なよ。」

「うん…。遼くんはみんなと合流していいよ?」

「永峰を家まで送るのが俺の役目なの!寝ている間に飯食って来るからさ、ゆっくり休みなよ。」

にこっと笑って、優しく頭を撫でられた。
いつもの私なら、無理矢理でも遼くんをみんなのところに行かせようとした。
でも今日の私は安心出来る遼くんの優しさに、素直に甘えようと思えた。
だから「ありがとう」と笑ってベッドに横になる。

すぐに私は何も考えなくていい夢の世界に入っていった。

だから・・・

「俺は…今の永峰を見ているよ。」

遼くんの私を想う気持ちの言葉を、私は聞くことが出来なかった。