「ありがとう。千沙ちゃん。」

笑わないでくれてありがとう
それだけのことが私は嬉しかった。
お礼を聞いて、にっこりと笑う。
愛実も笑顔で私たちを見ていた。

「でも誰なんだろうね。夢に出てくるんだから、知ってる人なんじゃないの?」

ふと、思ったことを千沙ちゃんが口にした。
それは私も思っていた。
でも・・・覚えていることをたどっても、私の記憶の中に彼の姿はいない。

「小四で初めて見たってことは…それよりも前に会ってる人でしょ?ってことは…今じゃ26歳とか、それくらいってこと?」

「見つけるのも大変だよねぇ~。」

一生懸命、私の好きな彼のことを考えてくれている千沙ちゃんと愛実。
嬉しいけど真剣過ぎて恥ずかしいかも。

♪♪~♪~♪
千沙ちゃんのスマホから音楽が流れ出した。
どうやら電話のようで、席を立ってスマホを耳にあてる。

すると慌てた様に電話を切った。

「帰るの遅くて、お母さんから電話が来ちゃった!」

慌てて私もスマホを取り出して時間を確認する。
22時を過ぎようとしていた。

「え!?もうこんな時間!?バスがなくなっちゃう!!」

三人で急いでお店を出る。
私はバス停、千沙ちゃんは駅へ、愛実は自転車で帰っていった。

バスに揺られながら、夢の彼のことを考える。
私が覚えている限りの中じゃ・・・彼の姿はない・・・
じゃあ・・・覚えていない中に彼がいるの・・・?

失った記憶の中に・・・彼がいるのかもしれない