引っ掻き傷だけでなく、あちこちぶたれた箇所は赤くなっている。
「なんだか、あたしより重傷だね。痛い?」
「……痛い」
「おまじないしてあげようか?」
「……いい」
「ちちんぷいぷいのー」
そう言ってそうちゃんの目の前で人差し指をくるくるすると、不機嫌なそうちゃんに振り払われてしまった。
「いいってば」
「なんでー」
「それ効いたためしがない」
「タメシガナイ?」
「ごめん、効いたことがない」
「もう、また馬鹿にしてー」
その頃、頭のレベルが明確化されつつあった私達の会話は時々こうして行き詰まることがあった。
俯くそうちゃんの顔を覗き込みながら、首を傾げる。
「ねぇまだ怒ってるの?」
「怒ってない」
「怒ってるよ」
「怒ってないってば」
「じゃ、笑ってよ。いつもだったら笑うとこなのにっ」
「笑えないよ。なんでみゆはそんなに呑気なんだ。もし傷でも残ったらどうすんだ」
吹き出すようにぷっくくくと声を殺して笑う私に更に眉間に皺を寄せて怒るそうちゃん。
「……何がおかしいの?」
「ごめん、おかいしいんじゃなくて。嬉しくて。そうちゃんが私のために怒ってくれて嬉しいの」
改めて、そうちゃんにお礼を言う。
「ありがとうね、そうちゃん」
私は帰ろうと言って手を差し出した。
「もし私にさっきので傷が残って、お嫁さんにいけなくなっちゃったら、そうちゃんお嫁さんにしてくれた?」
「……まぁ、かわいそうだから」
「そっかー、だったらちょっと位傷残っても良かったかもっ」
……しかしよくもまぁ昔は恥ずかしげもなくそんなセリフをぺらぺらと言えたもんだ。
宗佑はこんな私の姿を見てこの時のように怒るかな、それとも呆れるかな。


