大丈夫、あなたのせいじゃない。
あなたが私を殴って傷つけても、あなたのせいじゃない。
そんな方法でしか想いを伝え合えない私達に問題があるのだ。
私はいくら彼に傷つけられても、あなたの元から離れるつもりはない。
殴られてもひたすら耐えることが、いつしか彼に対する私の想いの証明かのようになっていた。
私の気持ちに不安になる彼を信用させるにはこれしかない。
私自身もそう思っていた。
彼はいつも、傷ついた私を最後はぎゅっと抱きしめた。
いつも無言だったけど涙する彼は、きっと、ごめん、ありがとうって言っているような気がした。
私も彼も狂ってる。
他に伝え合う方法はいくらでもあったはずなのに。
呆然としながら、これから来るであろうそうちゃんを処置室で待つ。
彼を外のソファーへ待たせたまま。
……前にもこんなことあったような。
そうだあの時だ。
あれは小学4年生位の頃。
その頃そうちゃんはすでに一人だけ達観して大人びていたから、周囲から少し浮いていた。
皆と混じってバトル鉛筆もカードゲームで遊ぶところも見たことがなく、放課後はいつも塾に直行していた。
そんな、まだ周りと合わせることができなかった頃のこと。
いつも寡黙で優等生キャラで通っていたそうちゃんが一度だけ本気で怒ったことがあったのだ。
それは、いつもの掃除の時間。
ほうきで遊び始めるやんちゃな男子グループと、それを注意する女子達。
いつもと何ら変わらない光景。
私はというと、多分今日の晩御飯なんだろなーなんて、ぽーっとしてたんだと思う。
棚を拭いていたら、突然遊んでいた男子のほうきの棒の部分が頭にぶつかったのだ。
痛くて頭を抑えてしゃがみ込む私。
先生や皆が私に駆け寄ってくるのが分かると、幼いながらも大事にしないよう、すぐ顔をあげようとした。
その時、それよりも早く私の手を取って、一番に宗佑が駆け付けたのだ。
「大丈夫?」
「うん」
頷く私に、女の子達も心配してくれる。
「未結ちゃん、大丈夫?保健室行こう」
「なんだよ、大袈裟だな」


