1%のキセキ





「32才男性、会社の会議中、頭を抱え込むように倒れた後、意識消失。レベル3桁、瞳孔ピンホール、対光反射ありません」

「……ちょっと待って今、何歳って言った?」

「32才です、結婚されたばかりのようで、奥様が今病院に向かっているところです」

それを聞いた瞬間、外来中に緊張が走った。
思わず一瞬、フリーズしてしまう。
完全に竦み上がってしまい次の言葉が出るまで時間がかかった。


「……そのままMRI、CT撮って」

「は、はい……っ」

深昏睡に縮瞳、対光反射もなし……。
発症の仕方からおそらくSAHか脳幹出血。


……しかも、きっともう末期。

検査中、モニターに映り出されたスキャンを見て思わず息を飲む。
それは予想通りの結果だった。


「……グレード5、末期のくも膜下出血だな」

いつの間にか後ろに来ていた、高城先生が言う。

もうこの状態では手術もできない。
死ぬのをただ待つしかない、そんな状況だった。


「家族には俺がICしよう」


個室で奥さんと患者の母親へ、くも膜下出血の病態と今現在の患者さんの状況を説明していく。
そして、これから死に向かって体に起こる変化も。

高城先生の隣で、ちらっと奥さんの様子を窺った。
奥さんは取り乱すかと思ったら、怖い位静かに聞いていた。
茫然しているようでもあった。

若い奥さんだな……。
この年で未亡人なんて。


「何かご質問はありますか?」


「先生……、あの達也はいつ頃退院できるんでしょうか?」

私と高城先生と、2人で奥さんを見つめる。
決して、冗談を言っている訳ではない。
顔は真剣そのものだった。


「由香ちゃん……っ」

その横で患者の母親が、奥さんの腕を掴んで呼びかける。
その瞳には今にも零れ落ちそうな程の涙を貯めこんでいた。