内科医局前、いつものように立っていると運悪く大嫌いな奴に遭遇した。
白衣の下に紺色の術衣を着た、外科の黒瀬。
話しかけられないように少し顔を背けていたが、いつものように意地の悪そうな笑みを浮かべて近づいてきた。
「どうしたの、チークなんて付けちゃって」
……宗佑君は気付きもしなかったのに。
なんでそれをあんたが気付くんだ。
「何か心境の変化でもあったの?いつもは青白ーい顔してんのに」
「……あの、私にちょっかい出すの止めてくれませんか?私あなたみたいな人大嫌いなんです」
私を見下ろす奴を見据え、はっきりと強い口調で言った。
「はっきり言うねー。傷つくんだけど」
……嘘ばっかり、全然傷ついたようには見えない。
私をからかって楽しんでるくせに。
「桐山君かっこいいよねー、正統派イケメンていうか。奥様方が好きそうな感じ?」
「だからなんですか?」
「……安生先生のことは秘密なんだ?」
「なんであなたが……っ」
驚いて、不敵な笑みを浮かべる彼の顔を見張った。
思わず動揺してしまう。
私と宗佑君との関係はさておき。
どうして……っ?
なんでこいつがそんなこと知ってるの?
「大丈夫、俺口固いから」
「…………」
愕然として、声も出せなくなってしまう。
こいつの言うことなんて信用できない。
猜疑心に満ちた目で、目の前の奴を睨みつけた。
「もう、露骨に顔に出し過ぎでしょ。ちょっとは信用してよー」
そう茶化す奴に、私は更に眉間に皺を寄せる。
そんな中、私達の間に割って入るように藤沢先生がやって来た。
「あら?珍しい組み合わせ」
「お、さつきちゃん、おつかれ」
「おつかれさまです」
先輩、後輩の間柄の2人が挨拶を交わす中、私は藤沢先生へ会釈した。
すると私の顔を覗き込むようにして、藤沢先生が心配そうに声をかけてくれた。
「どうしたの?難しい顔しちゃって」
「いえ……」
すいません、そう言ってその場から立ち去ろうとした時、
「大きなお世話かもしんないけど、そんなんしてたらどっちも失うことになるよ」
……と、後ろから黒瀬に忠告された。
そんなこと自分でも分かってる。
分かってるけど、上手くいかないことだってあるんだってば。
何も知らないくせに、偉そうに言わないでよ。


