いつもより少し優しい彼に甘えて、留守中のわだかまりを彼にぶつけてみる。
「都会の女の子に浮気してない?」
「する訳ないだろ」
自然と重なり合った手と手、しかしそれもすぐに引き離されてしまう。
彼の手を取ったのは、小さな可愛い女の子。
私と、いやもしかしたらそれ以上に彼に愛される女の子。
ライバルは身近にいたかと、思わず苦笑い。
それも私とは違って、彼女はひたすら甘やかされいる。
何をねだっても、彼にノーとは言わせない強敵だ。
「パーパっ、いっしょにのぼるのっ」
そう言って、遊具へ連れて行かれる彼。
梯子を登った先には滑り台がある。
梯子は筒状になったものに覆われていた。
そこへ入る入り口は大人には少し小さい。
「俺入れるのか」
子ども用の遊具にそんな心配をしながらも、娘からの誘いは断らない。
「はい行ってらっしゃい」
私はそんな2人を見送った。
その入り口に入るも、なかなか娘を追って登ろうとはしない。
やっぱり無理だったと、彼が苦笑いしながら帰ってくるのを待っていると、不意に入り口から顔を出して手招きされた。
行って中を覗いてみると、外側よりも手抜きにペンキを塗られたのか、ところどころ剥げている部分が多い。
「どうしたの?」
「これ、お前書いたの?」
その剥げた部分を指さし聞かれた。
そこには相合傘の悪戯書き。
並ぶのは私とそうちゃんの名前、それはそれは下手くそな字で刻まれていた。
驚いて彼の顔を見て、首を振る。
「いや、全然覚えてない。そうちゃんじゃないの?」
「いや俺も覚えてない」
きっとどちらかが書いたのだろうが、全く覚えていない私達。
だけど、こうやって2人でここで遊んだのはしっかり覚えている。
時とともに風化する公園、だけど変わらないものは確かにここにあると。
引き付けられるように、自然と顔が近づいて、そしてこっそり唇を合わせた。


