「ただいま」
「見てっ、とばせなかったの。ウラナイしたのに」
抱きかかえられたまま、ずいっと彼の目の前に半分残った綿毛を差し出す。
「そうか残念だったな」
「?」
そんな、やり取りに少し違和感。
「あれ?手伝ってあげないの?」
「娘の恋など手伝ってやれるか」
そう言う彼に、思わず吹き出してしまう。
「あはは、そうちゃん親ばか過ぎ。まだ、こんなに小さいのに。彼氏ができるのも、お嫁に行くのも当分先だよ」
「そんなの分からないだろ、その相手がゆくゆく彼氏やら旦那になるかもしれないのに」
その言葉に、年甲斐もなくドキっとする。
それは、私達みたいに?
すると聞くまでもなく彼の口から言われた。
「俺達みたいに」
そうちゃんに初めて出会ったのも、この頃だったろうか。
そう考えると、改めてすごいことなんだなと実感する。
こんな小さい頃からの初恋が叶うなんて、信じられない。
「……懐かしいな」
「ね、よく、ここで遊んだよね」
「でも、あの頃とは随分変わったもんだ」
私達の頃はもっと錆びれていたのに、今はピンク、黄色、水色と可愛らしく塗り替えられている。
そして、いつの間にか付け足された遊具によって立派になった公園。
「ちょっと寂しいね」
「まぁしょうがないよな、何でも時間がたてば変わらないものなんてないだろ」
「そうだね」
侘しさを感じながら、遊具の近くにあるベンチで2人並んで遊ぶ娘を見守る。
「……しかし、みるみるうちに未結に似てくるな」
「ね、もう私に似て可愛くてしょうがないでしょ?」
冗談で言ったのに、なかなか彼からの返答がない。
いつもだったら、頭まで似ないといいけどな、位の意地悪を言いそうなのに。
そわそわしながら、横にいる彼をちらっと見ると、そこには優しげな顔で娘を見つめる父親の顔をした彼がいた。
見つめる私に気付いたのか、ふと私を見て微笑む。
「そうだな、可愛くてしょうがない」
細められた目で見つめられ、ドキっとする。
まるで私も可愛いと言われたような気がして。
「今日、なんだか優しいね」
「何言ってんだろ、いつも優しいだろ」
「そうだったかな」
一体どうしたのか。
横浜の出張がそんなに疲れたのだろうか。


