「ママ、ふわふわっ」
小さな手で今まさに潰されそうとされているのは、タンポポの綿毛。
「だめよ握っちゃ」
「え?」
「見ててね、ふーって」
その手から白い綿毛を取ると、ふーっと空に向かって吹いた。
ふんわり春風に揺られながら、空へ広がっていく白い綿毛達。
それにきゃっ、きゃっと喜ぶ我が子。
「一つ一つがお花の赤ちゃんなの。こうやって色んなところへ飛んでまた春に花を咲かせるのよ」
「あかちゃんっ?」
「そう種っていうの」
「ママのおなかのあかちゃんといっしょ?」
「お腹の赤ちゃんに聞いてみる?」
そう言うと、膨れた私のお腹に耳をあてた。
すると、ちょうど、ぽんぽんと蹴ったお腹の子。
「ちがうってゆってる」
お腹の赤ちゃんからの答えをノーと解釈したらしい。
しばらく2人で空に飛んで行った綿毛を見上げていると、キラキラした目で聞かれた。
「ねぇ、これ、ヨコハマまで行くっ!?」
それはこの子が最近覚えた地名だった。
「そうだね、もしかしたら飛んでいくかもね」
「そしたらミナが飛ばしたの、パパも見るかもしれない?」
そうだね、と言いながら娘の前にしゃがんで聞く。
「未奈は、好きな子いる?」
「いるよ!けんちゃん」
「このふわふわね、一度で全部飛ばせたら両想いっていう占いがあるの」
「やりたいっ」
一つ綿毛になったタンポポを摘んで娘へ手渡す。
口をすぼめ後ろへ少し仰け反りながらすぅーっと息を吸い込むと、一気にふぅっと綿毛に吹きかけた。
たちまち、手元を離れていく綿毛達に、無邪気に喜ぶ。
しかし、半分残ってしまった綿毛。
「未奈にはまだ難しかったね」
「ママは?」
「ううん、もうママは叶ったからいいの」
「?」
首を傾げて、ハテナマークを浮かべる娘に、
「ほら」
と娘の後ろから近づく彼を指す。
振りむこうとしたところで、娘の顔を彼の両手が覆った。
「だーれだ」
「パパーっ!」
迷いなくそう答え後ろを振り向くと、ぎゅっと彼の体に抱きついた。
横浜の学会に行ってきた彼が帰ってきたところだった。


