1%のキセキ





「……さっき、怒ったの怖かった」

「悪かったって」

「一瞬、本当に振られるかもって思った」

「な訳ないだろ」


私の涙に気付いたそうちゃんが、頬に伝った涙の跡を撫でる。
そして慰めるように、私の背中を擦った。

私はそれに甘えるようにぎゅっと彼にしがみつく。

しばらく彼に体を預けていると、静かに引き離され至近距離で見つめられる。
私の顔を確認するように、頬に片手を添えられながら。


「でも、あれだけ本気になる位お前のこと大事に思ってるんだよ」

壊れ物を丁寧に扱うかのような触り方。

少し困ったかのように言う彼、こんな切々とした表情はあまり見たことがない。








「俺には遠慮しないで甘えてくれていいから」

「……そんなこと言って後悔しない?」

「なんで?」

「今以上に甘ったれになったら、苦労するよ」

「こんな気苦労する位だったら全然いいよ」

「言ったね?」

「何だよ、怖いな」


そう聞き返すと、何を要求されるのかというように苦笑いされる。



「全部ちょうだい」

「え?」


……そんなこと、現実的に絶対無理なことは分かってる。

だけど甘えていいと言われたのならば、際限なく彼を求めたい。

そうちゃんの中で私を占める割合は一体どれ位のものか。

それを推し量ることはできないが、少しでも彼を独占していたい。


テーブルの上にある医学書。
普通に新聞や雑誌のように、普段の生活にある。

きっと、日常の中でも仕事のことを考えることが多いだろう。

もしかしたら、私はもうすでに現時点でこれに負けてるのかもしれない。

それは彼の一部であって比べること自体が間違っているのかもしれないけれど、それでも少し妬いてしまう。


私の頭の中を独占するそうちゃんと同じ位、そうちゃんにも私を想っていて欲しい。

せめて、この一瞬だけでも。


「もう、そうちゃんしかいらないなら。私も全部、そうちゃんにあげるから」



反転する視界。

熱を帯びた彼の眼差しを一身に受けながら、何度もそうちゃんの名前を呼んだ。

ただこの体が愛おしくて、彼を抱きしめる手に力がこもる。


深い部分で溶け合ってこのまま一つになれればいいのに。

涙を流しながら、掠れた声でまた彼の名前を呼んだ。


きっと、何度大きな喧嘩をしてもより戻すことができる。

ここに辿り着くまで紆余曲折あれど、私達はずっと想い合ってきたのだ。

生半可なことじゃ互いにこの気持ちは揺るがない。