「……ごめん、そんなにお前が気を遣ってたなんて思わなかった」
悟られないようにしていたのだから、そうちゃんが謝ることじゃない。
それに、ううんと首を横に振ろうとして思いとどまる。
ふと、悪戯心が疼く。
さっき冷たくされて、これで終わってしまうかもと一瞬思った。
そうちゃんの冷たい態度より、そっちの方が怖くて怖くてたまらなかった。
自分でもあの時、よく涙を堪えられたもんだと思う。
「……許さない」
下唇を噛みながら目線を下に向けそうぼそっと呟いた。
まるで子どものようないじけ方。
しばらくの沈黙の後、声色を変えて抑揚のない声で言われる。
「……て言われても、今更お前のこと手離すつもりないからな」
容赦なく鋭い目線を向けられ、私も負けじと応える。
「当たり前でしょ」
「じゃ、どうしたらいいんだよ」
そんなの簡単なこと。
そうちゃんがその大きな手で私の頭を撫でてくれれば、私の機嫌はたちまち良くなるだろう。
「しょうがない、何か欲しい物があるなら買ってやるよ。それともどっか旅行にでも行くか」
だけど、彼はそんな自分の力を知らないらしい。
そんなものよりずっと容易く私を喜ばせられるのに。
すっと、彼に両手を伸ばした。
「……慰めて」
それに微笑みながら、また優しい声がかけられる。
「おいで」
そう言って私の手を取ると、ゆっくり引き寄せられた。
温かい腕の中、優しく抱きしめられる。
またじんと目頭が熱くなる。
だけど今度は嬉し涙。
この腕の中にいられたら、もう何もいらない。
満たされていく心、目をきゅっと瞑ると一粒の涙が零れ落ちた。


