快諾してくれた未結の両親。
人の気も知らないで、うるさい姉妹。
そして茶化すような目で見つめる母親。
俺があの日焦がれた光景が目の前に広がる。
……ひとまず良い反応が返ってきて良かった。
これで、少し肩の荷が下りた。
ほっと胸を撫で下ろし、その日はそのまま帰宅した。
いつも通り、病棟で急性期を脱した患者の点滴を変更していたところ、ある1人の看護師に声をかけられた。
「桐山先生、どうぞ食べて下さい」
渡されたのは可愛く包装されたバレンタインチョコ。
それで、今日はバレンタインなんだと思い出した。
「あぁ、ありがとう」
その一人の看護師を皮切りに次々と渡してくる看護師たち。
今日仕事じゃない看護師の分まで渡されてしまった。
すると脇から、高城部長に紙袋を差し出される。
「これ上げるよ」
両手いっぱいに抱える俺とは違って、部長は手ぶらだ。
「あれ、部長のチョコは?」
慕われている部長がもらっていないっていうのはありえない。
「あぁ早々に彼女に取り上げられたよ、食べ過ぎたら血糖上がるってね」
なんでも外来前にわざわざ病棟へ来て、部長へ渡す用のチョコを看護師から回収していったそうだ。
「はは、よくやりますね藤沢も」
「あぁ完全に尻に敷かれてるからな」
なんて完全にプライベートな内容をこっそり話していると、不意に俺のピッチが鳴った。
脳外科の病棟にいて、しかも隣には珍しく手の空いた脳外科の頭領がいる。
そんな中で、一体誰が俺に何の用なのだろうと思いながら電話に出た。
『あ、宗祐っ?』
電話の相手は今話していた藤沢だった。
移動しているのか息を弾ませている。
今頃週明けの外来でてんやわんやしているだろうに、一体どうしたんだろうか。
「どうしたんだよ?」
『未結ちゃん来るって……っ』
「え?」
『だから、今、意識消失発作で運ばれてくるって』
一瞬思考が止まる。
隣で、部長が何か言ったかもしれないが、それもよく耳には入って来なかった。
急いで、外来へ向かう。
その間、まともに考えられない頭の中で様々な憶測が飛んだ。


