墓前に両手を顔の前で合わせるお義父さん。
そして、眉尻を下げながら切り出した。


「……覚えているかい?君が理津子をうちの墓に入れたいと言ってきた時、嫁にやったのに返すつもりかと怒鳴ったこと」

それは、東京で葬儀をし理津子が灰になった日、高城家の墓ではなく理津子の実家の墓へ入れさせたいとお願いした時のこと。

私はその問いに、はいと答えた。


「よくよく理由を聞いたら、自分はまだすぐには理津子のところには行けないし、知っている人が1人もいない自分の先祖の墓に入るより、見知った人達がいるところがいいだろうって。もちろん、自分も生涯添い遂げるつもりでこっちに移り住むと」


……私は元々東京生まれで、育ちもずっと東京だった。そしていずれは実家を継ぐ予定でいた。

だけど理津子をこっちに帰そうと決めた時、自分も東京を出て一緒についていくことに何ら迷いはなかった。


「理津子の人生は私達親より短いものだったけれど、それでもそんな風に思ってもらえる伴侶と巡り合えたことはかけがえのない幸せだっただろうと思った。本当に君には心から感謝している」

自分がしたいようにしてきただけであって、そんな大それたことはしていない。

そう伝えようとしたが、お義父さんが話し始める方が早かった。

「だけど、その結果君をここに縛り付けてしまった。いずれは実家を継ぐ予定でいた君の人生を狂わせてしまった。本当に申し訳なかった」

そう言って頭を深く下げるお義父さんに、慌てて頭を上げるよう言う。

「頭を上げてください。それは理津子の近くにいたいと思って、自分で選択したことですから」

「だけど、いつまでも理津子に縛れることはない。好きな人ができたなら、尚更だよ。これからは、君の好きに、自由に生きなさい」