そう言われてかーっと頭に血がのぼる。
「だ、だから前から嫌いだったんです、あなたのこと……っ。全般的に男の人は苦手でしたけど、特にあなたみたいな軽薄な人はっ」
「へー嫌いなのに、夜な夜な会いに来るんだ」
「だから、もう帰るって……っ」
言ったじゃない、そう言おうとして立ち上がろうとしたところ、彼に腕を掴まれて座らされた。
「ごめんごめん、いじめ過ぎた。でも間違ったとは思ってないよ。泣く彼女に俺の慰めの言葉なんていらないだろ、彼女を苦しめるだけだ」
「でも……」
「きっぱり振って冷たくしてやった方が彼女もすぐ吹っ切れると思うけど」
理屈はそうだけど、彼女のあの涙を見てしまうとどうしても、うんとは頷けない。
そんななかなか納得いかない様子の私に、先生がまたため息をついた。
「君が倒れて病院に来た日、夜の当直は宗佑だったんだよ」
始ったのはあの日の出来事、その名前を聞いて思わず戸惑ってしまう。
「え……?」
「あの時、宗佑は君の様子を見に行きたいって言ったんだけど、俺が止めたんだ。止めなきゃよかったな。君が今言ってることは、あの時宗佑から優しい言葉の一つでも欲しかったってことだもんな?」
……これには、もう何も反論できなかった。
私は何も言い返せず、下を向いてゆっくり首を横に振った。
先生が言っていることは間違ってない。
全て理にかなっている。
でもそれが私には、思いやりのない冷たい人間のように見えてしまったのだ。
あの温かい言葉をかけて優しく微笑んでくれた先生が全て虚像のように思えて……。
だから、騙されているかもしれないことが怖くて、こんなにムキになってしまった。


