新撰組異聞―鼻血ラプソディ

「……山南さん」


翡翠は、山南の気配が遠くなるのを感じ、名を呼んだが、山南は振り返えらなかった。



快活な下駄音に、稽古場の雰囲気が引き締まる。


「稽古を終えたところ申し訳ないが、今から観てもらいたい1戦がある」



土方の凛とした声が、稽古場に響き渡る。



「総、翡翠、前へ」


呼ばれて沖田は前に出る。

翡翠は、声のする方へ体を向ける。

隊士達が、沖田と翡翠の1戦を見学する体勢を作る。



山南がスッと翡翠の手を引き、沖田に向き合わせる。


「翡翠、目隠しを外しなさい。
山南さん、後は頼む」


土方が山南、沖田、翡翠から離れ、ゆたりと腰を下ろす。


「信太さん」


翡翠は目を覆う、手拭いをゆっくり外す。


先ほど、鼻血で顔を汚し、部屋の隅で怯えていた少年。

その本来の顔が、露(あらわ)になる。