新撰組異聞―鼻血ラプソディ

――来る。

翡翠の体が反応する。


上段から降り下ろされる、一手が翡翠の面を狙う。


刹那。
面を素早く交わし、翡翠は体を僅かに捻る。


――速い


山南が思った瞬間。

翡翠の竹刀が、山南の銅を打つ音が響いた。



「信太……さん」


山南は呆然と立ち尽くしている。


――相手は目隠しをした、真刀での経験もない少年だ。

だが、私は力を抜いてない。
手加減などしていない。


面の狙いも時宜も完璧だった。

なのに……交わされた?

尚且つ、銅で1本を取られた



山南は土方に呼ばれ、一言「楽しむ余裕を」と託された意味を理解した。


「参りました。私では君の相手にはなりませんね」


山南は悔しそうに言う。



「……違う」


翡翠は声をあげる。


――こちらから仕掛けますよ、山南さんの声が合図だった。