新撰組異聞―鼻血ラプソディ

この手もまた、数多の血に染まっている手なのかと、哀しくなる。



山南と翡翠が向かい合う。

互いに、正眼に構える。


何も感じない。
静か――だ。


山南は翡翠の目の前にいて、確かに竹刀を握って立っている。


なのに、翡翠は山南から何の感情も伝わってこないことが不思議でならない。


目隠しをしている翡翠には、山南の表情も見えない。


何も感じない相手に?

どう、動いていいのかわからない。

気配だけ……正面に確かにいる、気配だけがある。



闇雲に竹刀を振っても交わされる。


翡翠は待つ。
山南が仕掛けてくるのを ただ、じっと待つ。


「仕掛けてこないならば、こちらからいきますよ」


穏やかな声が聞こえる。


――動く、右か左か?


翡翠は気配で竹刀を青眼(利き目)に向ける。

間合いを開ける微かな足音。

竹刀を振りかぶる微かな風音。