新撰組異聞―鼻血ラプソディ

1本、そればかりを考えている翡翠に山南の言葉は意外だった。


力を抜いて……リラックスか



翡翠はフッと笑う。
続けて、小さく声を出して笑った。



「信太……さん!?」



戦国時代なら、軍師のような人だなと思う。

勝つために正面突破しようとする主君に、引くことや後方攻めや斜からの攻めをを持ちかける、巧妙な軍師。


翡翠は自分が、ドキドキしていないのに気付く。


山南は翡翠の顔を拭いたほど、近くにいる。

息もかかるほど近くにいる。

なのに山南に対して、何も警戒心や緊張、恐怖を感じていないのが、翡翠は不思議だった。


「試合前です。少し体を温めませんか。素振り程度なら付き合いますよ」


山南は翡翠の手を取り、立ち上がらせる。


冷たい手。

井戸水をわざわざ汲み上げ、濡らした手拭いで丁寧に顔を拭いてくれた手――。