沖田さんが深い溜め息を漏らし、俺の目からタオルを外す。



暗闇から解放されたばかりの目にゆっくりと、映し出されていく景色と匂いが重なる。



「総、とりあえず翡翠は預ける。
翡翠、荷物を整え、持っている胴着と袴に着替えたら、少し休みなさい」


「はい」


沖田さんと返事が重なる。


土方さんの凛々しい顔。往年の銀幕女優、吉永小百合のような慎ましやかな微笑みが、言い知れない孤独や不安を包んでいく。


お母んにも似た安らぎ。

お母んにはない均整のとれた居住まい。

ただそこにいるだけで感じる存在感。

威圧感と、真逆に感じる包容力。

鬼――と恐れられていたという記述が、俺には信じられない。

鬼の面を被った菩薩、聖母が微笑んでいる。


そう思いながら、俺は頭を下げた。


「お手数おかけします」


ただ、それだけ口にするのが精一杯だった。