-江戸時代中期-


あれはよく晴れた夜空だった。


松倉高寛(マツクラタカヒロ)は山のふもとにある、広い草原に寝そべって星を見ていた。


その場所は全く人が寄りつかず、絶好の場所だった。

高寛は、晴れた夜には時々家を抜け出し、星を見に行く事が好きだった。
いつも家の事も、なにもかも忘れて星を眺めていた。


素晴らしく月と星が輝いている夜だった。


* * * *


星空を見ていた高寛は思わず、「きれいだな」と小さく呟いて体を起こそうとしたその時、
そう離れていないところでカサカサと草が擦れる音がした。

誰かが来る、と立ち上がったその先に見えたのは小柄な娘だった。
年は自分と同じぐらいだとろうかと考えた。

下を向き、泣きながら歩いていた。

すると、その娘はこちらに気づいて、くるりと振り返り反対に走り出した。

高寛はわけもなく追いかけて、娘の手をぎゅっと掴んだ。

その瞬間に、娘は高寛の方を振り向き、
目と目が合い、月明かりで照らされた、娘の顔と一滴の涙が、とても美しく見えた。


高寛は娘にとっさに訊いた。

「君の名前はなんという?」


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