ドキドキする。

そう心の中で呟いて胸元に手を当てた。視線だけ動かして周りを見れば確実に人数が減っているのが分かる。

次々と名前を呼ばれて部屋を出ていく人達を見て心拍数が高まっていくのを感じていた。

自分なりの精一杯できちんとした格好をしてきた、でも場違いな気がして集まってもいない周りの視線を気にしてしまう。

人は人、自分は自分。

分かっていても緊張が勝って冷静さを取り戻せない。

「最後の方、どうぞ。」

一人になれば少しは落ち着くかと思ったが逆効果だった。最後だなんてついてない。

心臓が口から出そう。

胃液が上がってきそう。

どんな表現を使っても言いたいのは一つ、極度の緊張状態だということだ。

「こちらでお待ちください。」

品のある案内係りに通されて部屋の前に置かれた椅子に腰かけた。落ち着かせるために深呼吸を繰り返していると中からこもった声がかけられる。

「次の方どうぞ。」

聞こえるなり立ち上がって見事な装飾がされた大きな扉を叩いた。

「失礼します。」

声をかけて扉を開ける。

廊下の重く薄暗い雰囲気とは違い、部屋の中は日の光で広い室内が明るく照らされていた。

中央に置かれた長机にはいかにも大役を担っていそうな重鎮たちが並んで座っている。そしてその前に置かれた一脚は自分が座る席だろうと静かに理解した。

「お名前をお聞かせ願えますか?」

末席に座る一番若い男性がにこやかに微笑む。

その声に背筋を伸ばし、顎を引いて覚悟を決めた。

「栢木アンナ、と申します。」


彼女はたった今、生きていく為に勝負をかけたのだ。