泡影の姫

「そばにいることはできても、誰かの代わりなんて、できないんだよ」

湊の瞳が揺らぐ。
彼の目のなかに移りこんでいた私も逃げようとしている。
だから私はもう片方も手も添えて、逃げてしまわないように彼を拘束した。

「そこにある〝世界〟はその人だけのものなんだよ」

かつて私の世界は水泳だけで形成されていたように。
その人の世界は、その人のものだけで。

「私は、どこまで行っても私だったよ。私の世界は、今も確かにここにあったよ」

どこに逃げたって、どれだけ別のものを欲したって、私はどこまでいっても私のままで。

私は『私の世界』を歩いて行かなきゃいけなくて。

それが、残酷で、優しくない現実だとしても。

「湊は湊の〝世界〟を大事にしなきゃダメだよ。そうじゃないと湊も彩愛さんも心が苦しいよ」

私は、もう一度夢を見よう。

水の中でなくても自由に生きていける、そんな夢を。