泡影の姫

黙っていると、湊の姉だというその人はたった一言、そっかぁとつぶやいただけで深く追求してこなかった。
一体何が分かったのか、それは私には分からない。

「ところでさっき、私の話をしてたみたいなんだけど?」

「えっ?」

「アヤメ、って私の名前なの」

そういって彼女は笑った。
どうやら話を聞かれたらしい。
どう対応すればいいのか分からずに、私はひたすら下を向いていた。
何かいけないことを聞いたようで、湊から直接聞かねばならないような気がして。

「ところで、今暇?」

「私は」

「私、湊の友達って全っ然知らないんだよね~。情けないなぁ。マジで」

「別に、友達なんかじゃ」

「話、聞いてくれるだけでいいの。湊を探してくれる子なんて、きっと他にいないから」

「私は」

「助けて。私たちを、助けて」

なぜ、この人は初対面の私にこんな風に縋れるんだろう?

私は今まで無意識のうちにいくつもの手を振り払ってきた。

突き放して、傷つけて、平気な顔をして、今まで生きてきた。

だから、この手を振り払うことなんて、きっとものすごく容易い。
でも私にはそれができそうにない。
急に道徳心が芽生えたわけじゃないし、私は慈善家なんかじゃない。
それだけこの人が必死だったのだ。

この手を取ったら、私は湊に近づけるだろうか?

私はそんな打算的で可愛くない判断しかできずにいた。