泡影の姫

「香坂……瑞希(みずき)」

「はっ?」

「名前!香坂瑞希」

少しずつ息が整ってくる。
脳に酸素がちゃんと供給されだしたらしく、言葉がしっかりして来た。

「アヤメって、誰?」

「いきなりなんだよ!?」

「何で最近この辺にいなかったの?」

「まぁいろいろ」

「あとね、えっと…」

「何がしたいわけ?とりあえず落ち着けって」

「会いに来た」

「はっ?」

「会いたかったから会いに来た。ただ、それだけ……」

探し出せたら何をしようとか、何を言おうとか、一杯考えていたはずなのに、湊を目の前にしたとたん何一つまともに出てこなくて、支離滅裂で。
伝えたかった言葉も聞きたかった言葉も、全部どうでもよくなって。
ただ、泣きたくなった。
悲しいのではない。
湊にまた会えた。
そのことに満たされて、泣きたくなる。
この感情を何と呼べばいいのか私は知らない。
ただそれでも思うのは、私はどうしようもなくこの人に会いたかったんだということだけ。
これはまぎれもなく中毒症状だ。
もう、水泳と同じレベルで私は彼に毒されている。