泡影の姫

「……泳げばいい」

だから彼女に教えてあげることにした。

「……えっ?」

彼女はその白い頬に涙を伝わせながら大きな目をさらに見開いて私のほうを見た。
そのまっすぐな視線を受け止めながら、私はもう一度ゆっくりと湊に貰った答えを彼女に告げる。

「好きなら、ただ泳ぎ続ければいい」

いつまでも同じではいられない。
時に突き当たる現実は優しいものばかりではなくて、目を覆いたくなるようなことも多くて。

だけど、それでも私たちは。

傷ついたり傷つけたりしながら、それでも生きていくしかないんだ。

「他の誰かになんて、なれないんだよ。私は、どこまでいっても私でしかなかったよ」

望んだとしても、誰かにはなれない。
別の何かじゃ意味がない。
そんな当たり前で、そして大切なことに気付けるまで私は散々回り道をして親や周りに心配をかけてしまったけれど。
ここに至るまでにかかった時間は、湊に出会ったことで私にとってかけがえのないものに変わった。
私はたぶんずっと今のむき出しの感情の私を受け止めて欲しかったんだと思う。
理解のあるふりをして、無理に共感し受け入れるのではなく、ただ疲れてしまった現状を受け止めて欲しかったんだ。
きっと、彼女もそうなのだろう。

足掻いて、もがいて、息苦しくて。

それでも前に進むだけのエネルギーを私たちは確かに持っている。