泡影の姫

「あんた、本当に何考えてるの?」

若干ひきつる頬の感覚を感じつつなるべく声量を抑えて私は湊を睨む。
これを湊に尋ねるのは多分本日二回目だ。
聞いたって無駄だと分かっている。この男は何も考えちゃいない。

「早く来いよ」

「来いよ、じゃないから」

私は周りを気にしながら、いやいやと手を振り湊に呆れたように返事を返す。
深夜徘徊や煙草のせいで補導されることは怖くなかった。
もしそれがきっかけで退学になったとしても、それはそれで構わなかった。自暴自棄になっていた私にとってそんなことは、なんの抑止力にもならなかった。
けれど、今は別だ。

「お前、さっき俺に買われたわけなんだし、ご主人の言う事聞けよな」

「一円でも払ってから、もういっぺん今と同じセリフ言いなさいよ」

自分には一円の価値もないといいながら、ここに来てそういった事を後悔しはじめていた。
フェンスの向こう側に居る湊に悪びれた様子はなく、なおも私に早く来いと急かす。
この手慣れた様子を見る限り、多分初犯ではない。