泡影の姫

「すぐ上がるからちょっと待ってて」

湊に声をかけてくるりと回れ右をしたところで、

「もう少し泳げば?」

と私の背中に声がかかる。

振り返った私に、

「待ってるから、泳げば?」

と湊はもう一度そう言った。

「でも」

待たせるのは悪いから。
そういうはずだった私の言葉をさえぎって、

「俺、瑞希が泳いでるの見るの、割と好きみたいだ」

と湊はそういう。
観覧席にもたれかかって私の方を見る湊の目は優しく笑っていた。
その表情は、あの日私に笑ってくれた彩愛さんを思い出させた。

「……じゃあ、ダウンの分だけ、泳いでくる」

私はそれだけ言って再び水の中に潜る。

割と好き。

その言葉を反芻して顔がほてるのを感じる。

水の冷たさが心地いい。
たった一言に翻弄される自分に苦笑しながら、熱を冷ますために私はゆっくり泳いだ。