泡影の姫

道路を挟んで向こう側の歩道に佇む彩愛さんは、信号が青に変わるとこちらに向かってまっすぐ歩いてきた。
私も彩愛さんを目指して人込みを縫うように進む。

「来ないかと思った」

会えたことに安堵してそう漏らせば、

「来ると思ったから、待っていたんじゃないの?」

と疑問形で返された。

初めて会った日とは違い警戒心をのぞかせる目と、少し疲れた表情。
そして何より違うのは、人目を引くほど大きな傷が今日は長袖を羽織ることで隠されている、という点だった。

「とりあえず、どこかに入りましょう?暑いし」

「そうですね。喉も乾いたことだし」

一時間も待たされたんだからという私の言外の嫌味は軽く肩を竦められるだけで受け流される。

来てくれただけでも僥倖だと思っているので、私もそれ以上は何も言わなかった。