副校長の呼び掛けで舞台の右袖から中央へ、落ち着いた足取りの女の人が歩いていく。

やわらかなグレーのスーツ。
緩くウェーブのかかった肩までの黒髪。
白くて整った横顔…


中央のマイク前で正面を向き、彼女は口を開いた。


「はじめまして、二ノ宮　あかねです。太田先生がお戻りになるまでの間、三組の担任と現代文を担当することになりました。みなさん、よろしくお願いします。」


二ノ宮先生の声は、今まで聞いたどんな声よりも透明で、聞いているだけで体育館の蒸し暑さや、背中の汗の気持ち悪さまで引いていった。


先生の声と一緒に、俺の頭の中にはどこかで聞いた覚えのある音楽が響いている。

暑さによる幻聴か？

たしかこの曲は…前にテレビでやっていた甘ったるい恋愛映画のテーマソングじゃなかったっけ？

…俺は一体どうしたんだ？？


そんなことを頭のはしっこで考えながらも、両目はすっかり二ノ宮先生から離せなくなっていた。