キミのための声







「……建吾くん」




「ん?」




「…あたし…ほんとは
分かってるんだ……。」





傷付くのが




とても怖いから。




分からないフリしてるだけ




大丈夫なフリしてるだけ





ほんとは―――……






「ほんとは…
大丈夫なんかじゃないよ……」





膝の上で、ギュッと
手を握りしめる。




「…愛梨沙ちゃん?」




心配そうにあたしを覗き込む
建吾くんを見て、あたしは
今にも泣きそうな声で呟いた。




「……葵くん…
あたしのことなんか、
好きじゃないよ……。」





それは




最初からそうだった。




「……愛梨沙ちゃん、そんなこと―――」




「でもそうなの」




遮るようなあたしの言葉に、
建吾くんは悲しそうな表情で
あたしを見つめる。




「付き合ったって…
一度も名前呼ばれたことない」




『愛梨沙』って



たったそれだけの声を




聞いたことがないんだ。





「あたしばっかり、なんて
思わなかったよ。それは
あたしが大好きなだけで、
寧ろそれでもよかったんだ。
好きすぎるくらいで、
よかったんだ……」





『葵くん』って




何度も呼ぶあたしの姿は




きっとあの人の目に




小さく映っている
だけだったんだろうな。




「でも…それは相手が、
分かりにくくてもちゃんと
『好き』って気持ちを
持ってくれてるから
許されることなの……」




「……うん」




真剣に聞いてくれる
建吾くんを前に
なんだか泣きそうになる。




それをこらえるためにも
あたしは苦笑して、




「葵くんの場合はさ、
もう根っからあたしのこと
好きじゃないからさっ!
ただのあたしの片想いってわけで、
それってすごく辛いでしょ?」




あたしが葵くんを
好きになってからも



付き合い始めてからも



結局はずっと




片想いだったんだよね。





「…それ、笑えない」




「……え?」




低い声で、少し怒ったようにも
見える表情で言った建吾くん。




「……笑えないよ。辛いんだろ?」




「……………」




「何で無理に笑ったりすんの。
それって自分守ってる?」




自分




守ってる―――……?





「俺は、泣きたい時に
泣かなかったりしたら
自分守るどころか
壊れていくと思う」