「オイ」

今不機嫌そうに声をかけてきたのは幼なじみの赤崎修真。いつものことながら、こうして公園で気持ちよく寝てるときに声をかけてくるのはご遠慮願いたい。

「なに?シュウ」

私、森野柚実は目を閉じたまま、同じく不機嫌そうに答える。

「とりあえす起きろ」

「えー」

寝返りをしながらこれまた不機嫌そうに答える。

「いいから起きろ」

修真の口調に呆れがプラスされた。

「…はいはい」

呆れのあとは言い返すと面倒なので仕方なく適当に返事をしながら起きる。
目を開けると、修真が隣に立って見下ろしていた。

「で、どうしたの?」

「…お前、こんなところで寝てて寒くないのか?」

やはり口調には呆れがある。しかし、当たり前だろう。公園で寝る、という単語だけなら普通かもしれないが、今の状況は単語の前に『真冬の』がつく。
…そう、今は冬真っ盛り。2月だ。

「全然。」

柚実はしれっと答える。

「嘘つけ。鼻、真っ赤だぞ」

「え、嘘っ」

反射的に手で鼻を覆う。

「…手も真っ赤だ」

「えっ」

手を見てみる。確かにいつもよりいくらか赤くなっていた。

「お前なぁ…。」

修真が身につけていたマフラーをとり、私の首に巻く。

「ちょ、いいよ。シュウ風邪引くよ?」

「いいからつけてろ。お前に風邪引かれる方が困る」

「うっ…」

本当は結構寒かったし、迷惑をかけるのも嫌だったので仕方なくマフラーに巻かれる。今まで修真が身につけていたものだからか、心地よい暖かさがあった。
修真が柚実の隣に座る。すると、大きな紙袋を出した。

「…今年も?」

「ああ。お前チョコ好きだよな?手伝ってくれ。」

今日は2月14日、聖バレンタインデーだ。今年もこの幼なじみは数多くのチョコを貰ってきたらしい。鋭い焦げ茶色の瞳に、すっと通った鼻梁。少し長めのブラウンの髪は生まれつきらしい。修真はなまじ整った容姿をしているため、毎年この時期は大忙しなのだ。
修真はその大きな紙袋の中からいかにも面倒くさいといった動作で甘いチョコが入っているであろう箱を私に差し出す。とても女の子らしいラッピングがされていて、一切乱れのない赤いリボンの結びにその子の几帳面な性格がうかがえた。

「どうした?早く取れ」

「う、うん…」

私は戸惑いながらもその箱を受け取る。しかし、やはり修真が貰ったものを貰う…ましてやその物に修真への思いが込められているのだと思うと気が引けた。